ブラウントラウト
  魚類 ⁄ 国外外来種
ブラウントラウト
目名 サケ目
科名 サケ科
種名(亜種名 ブラウントラウト
学名 Salmo trutta
地方名  
カテゴリー 北海道 A1
環境省 要注意外来生物
ワースト100 日本の侵略的外来種ワースト100(日本生態学会) / 世界の侵略的外来種ワースト100(IUCN)
*)亜種が問題となっている場合は、カッコ内に亜種名を記載しています。
●種名が特定できないものについては、「○○○の一種」と記載しています。

導入の経緯

原産地 ヨーロッパからアラル海を含む西アジア
導入年代 1877年~1926年のいずれか
初報告 1980年
全国分布 北海道、神奈川県、長野県、山梨県、栃木県、群馬県など10都道県
道内分布 ほぼ道内全域
導入の原因 はじめニジマスあるいはカワマス卵に混入して移入、のちに釣り対象魚として放流された。

種の生物学的特性

生活史型 淡水型、遡河回遊型
形態 頭部は扁平し、尾柄は太い。背側は黄土色に近い茶色で、頭部から背部には薄い色で縁取られた大きな黒点が散在し、側線付近を中心に、白く縁取られた朱点が散在する。但し、大型の個体では、朱点を欠くものもある。降海型では、体側が銀白色、背部は青みがかる。一般にニジマスより成長速度は遅いといわれており、河川型では1、2、3、4年でそれぞれ9、19、26、31㎝となる。降湖型は大型魚が多数確認されており、支笏湖では90㎝を超えるものも釣られている。また、カスピ海では125ポンド(56.6㎏)に達するものも記録されている。魚食性が強く、昆虫から甲殻類、他の小魚をよく捕食する(*1)。
繁殖形態 多回産卵型。本道での産卵期は12~3月。河川上流の淵尻から瀬頭への移行帯の浅い砂礫底に産卵床をつくる(*2)。
生息環境 河川の上流から中流と自然湖、人工湖および沿岸海域。降海型は、定置網で相当数が捕獲されていることから、沖合いには出ず、沿岸回遊していると考えられる。
特記事項 非常に魚食性が強い。北米同様、本道においても降海型が母川以外に遡上し、生息域を拡大していることが確認されている(*4)。

影響

被害の実態・おそれ 生態系にかかる影響 1)採餌をはじめとするニッチの争奪により、種間競争が発生する。2)産卵床の競合で、在来種の生存率を低下させるおそれがある。3)強い魚食性のため、在来の水圏生物に対し、上位捕食者として直接的な影響を与える。4)上記の事象に加え、母川以外の河川にも容易に遡上し、環境適応度も高いため、結果として在来魚との置換が発生する。5)秋田県では、在来イワナとの属間交雑の報告もある。6)日高地方のある湖沼では、ニホンザリガニへの捕食圧が問題視されている(*6)。
農林水産業への影響 サクラマス(ヤマメ)やシロサケ稚魚の捕食など(*1,2)。
人の健康への影響 不明
被害をもたらしている要因 生物学的要因 1)在来種であるサクラマス(ヤマメ)やアメマス(イワナ)と同様の環境で、それらより後に産卵するため。2)採餌をはじめとするニッチが在来種と競合するため(*1,2,3)。母川回帰性が弱く、一旦海洋に出ると、近傍の母川以外の近傍の河川にも遡上、繁殖するため(*4,5)。
社会的要因 遊魚対象として人気が高く、北海道内水面漁業調整規則の移殖放流禁止対象魚指定以前は、多くの水系に放流されていたため。
特徴並びに近縁種、類似種 大型個体はニジマスに似るが、体側の紅色縦帯がないことや、尾びれの黒点がないか少ないことで区別できる(*1)。
対策 北海道内水面漁業調整規則の移殖放流禁止対象魚
その他の関連情報 アメリカ・コロラド川では、ねじれ病(Whiring Disease)の媒介主として問題となった。

写真・イラスト

  長谷川 雅広 提供   長谷川 雅広 提供  
  長谷川 雅広 提供   酪農大吉田研究室 提供  
   提供

備考

備考  

参考文献

参考文献 (*1)松沢陽士・瀬能宏.2008.日本の外来魚ガイド.P80-87, 文一総合出版,東京
(*2)青山智哉. 2003.新北のさかなたち(上田吉幸・前田圭司・嶋田 宏・鷹見達也編),pp.126-131,北海道新聞社,札幌.
(*3)長谷川功,前川光司.2009.北海道千歳川水系ママチ川におけるサケ科魚類イワナ・ヤマメと外来サケ科魚類ブラウントラウトの当歳魚の分布. 魚類学雑誌,56( 1),p1-6
(*4)鷹見達也.青山智哉.1999.北海道におけるニジマスおよびブラウントラウトの分布.野生生物保護,4( 1),p1-6
(*5)三沢勝也,菊池基弘,et.2001.外来種ニジマスとブラウントラウトの支笏湖水系の生態系と在来種に及ぼす影響..(独)国立環境研究所研究報告,167,p125-132
(*3)長谷川功・前川光司.2008.北海道千歳川支流紋別川で起きた在来種アメマス単独生息域への外来種ブラウントラウトの侵入.日本水産学会誌,74( 3),p432-434
(*4)宮下和士.2008.降海型ブラウントラウトの移動生態の解明に関する研究.河川整備基金助成事業報告書(19-1215-2).北海道大学北方生物圏フィールド科学センター
(*5)帰山雅秀.2009.外来種講義資料
(*6)中田和義.at.al.2006.移入種ブラウントラウトが淡水産甲殻類に及ぼす影響:絶滅危惧種ニホンザリガニへの捕食.日本水産学会誌.72(3)p447-449
Elliott, J. M. 1994. Qantitative Ecology and the Brown Trout. Oxford University Press, Oxford, 286p.
青山智哉・鷹見達也・下田和孝・小山達也. 2002.北海道におけるブラウントラウトの年齢と成長および性成熟.北海道立水産孵化場研究報告,(56),115-123.
鷹見達也・吉原拓志・宮腰靖之・桑原 連. 2002.北海道千歳川支流におけるアメマスから移入種ブラウントラウトへの置き換わり.日本水産学会誌,68,24-28.
帰山雅秀. 2002.ブラウントラウト.外来種ハンドブック(日本生態学会編),p.113,地人書館,東京.