アライグマ
  哺乳類 ⁄ 国外外来種
アライグマ
目名 ネコ目
科名 アライグマ科
種名(亜種名 アライグマ
学名 Procyon lotor
カテゴリー 北海道 A1
環境省 特定外来生物
ワースト100 日本の侵略的外来種ワースト100(日本生態学会) 
*)亜種が問題となっている場合は、カッコ内に亜種名を記載しています。
●種名が特定できないものについては、「○○○の一種」と記載しています。

導入の経緯

原産地 カナダ南部からメキシコ北部にかけて広く分布
導入年代 1979年に恵庭市で飼育個体が逃亡、定着。
初報告 1992年(*1)
全国分布 47都道府県
道内分布 133市町村(平成22年4月現在)
導入の原因 飼育個体の逃亡・遺棄

種の生物学的特性

生活史型 メスは発情期になると、通常2~6個体と交尾する乱婚性の特徴をみせる(*10)。オスは交尾を終えると1~3日はメスと行動を共にするが、その後は完全に別行動をとり、子育てには参加しない(*11)。出産性比は、一般的に個体数が安定している地域では、ほぼ1対1になるが(*11,13)、急増中の個体群の場合、メスの比率が高くなることも報告されている(*15)。
形態 体型には性的二型があり、全体的にオスが大型である。体重: 3.6~9.0kg、全長:オス63.4~105.0cm、メス60.0~90.9cm、尾長:オス20.0~40.5cm、メス19.2~34.0cm(*16)
繁殖形態 2~3月に交尾期を迎え(*11)、54~70日の妊娠期間を経て(*15,16)、平均3~4頭の子を出産する(*11)。メスの妊娠率は当歳個体で0~73%、2歳以上の個体で68~100%(*11)。1歳前死亡率は35%~48%程度と比較的低い(*12)。出産は早いもので4月に始まり,6月上旬頃までに終わるのが一般的なパターンであるが(*11)、繁殖に失敗したメスの中には、同じ年のうちに2度目の発情期がくることもある。
生息環境 通常、餌や水資源、巣環境などの整った地域に定住する複数のメスを単独のオスが囲う形で行なわれるため(*14)、一般的には湿潤で水資源の豊富な森林環境を中心に分布が広がる傾向が強い(*15,16)。しかし、一定の水資源さえ確保できれば,本来は生息不適地である乾燥地帯や都市部まであらゆる環境に適応する力を持っており(*15,16)、日本においても、北海道の牧草地帯から、九州の都市域まで広く定着が確認されている(*6)。
特記事項 夜行性、半冬眠、木登りが得意で大径木の樹洞などを好んで利用する(*15,16)。

影響

被害の実態・おそれ 生態系にかかる影響 直接捕食による鳥類や小型の哺乳類、魚類、両生爬虫類、昆虫類、甲殻類などへの影響(*2,5,8)、感染症の伝播(*3,9)、在来種との競合(*4)
農林水産業への影響 トウモロコシやイチゴ、メロン、スイカなど農作物の食害、養鶏場、養魚場における食害(*2)
人の健康への影響 原産国では、狂犬病、アライグマ回虫症の媒介者として有名(*3)
被害をもたらしている要因 生物学的要因 天敵の不在、雑食性、高い繁殖能力、樹上性、半冬眠
社会的要因 テレビアニメによる一大ペットブームの到来と同時多発的な遺棄、放逐の発生(*6)
特徴並びに近縁種、類似種 5本の独立した肢指、蹠行性、眉間の黒い線、耳の縁取りが白い、はっきりとした白いヒゲが特徴(*17)。タヌキ、ハクビシンなどと見間違えられることが多い。
対策 平成6年より狩猟獣に指定。平成10-11年に「アライグマ被害対策検討協議会」、平成11-13年に「アライグマ対策検討委員会」を設置するとともに調査研究を進め、平成15年度より「北海道アライグマ対策基本方針」を定め、排除を進めている。また、「北海道動物の愛護及び管理に関する条例」でアライグマを特定移入動物に指定し、新たなアライグマの侵入予防をはかっている。(特定外来生物指定後に解除)特定外来生物(2005.6.1)
その他の関連情報 特になし

写真・イラスト

  酪農大吉田研究室提供 提供

備考

備考  

参考文献

参考文献 阿部永ほか (1994) 、日本の哺乳類:東海大学出版会
野生生物保護対策検討会移入種問題分科会 (2002)、移入種(外来種)への対応方針について
池田透 (1998) 「移入哺乳類の現状と対策」、遺伝 52巻5号37-41頁
(*1)村山美佳 (1992) 「北海道におけるアライグマの帰化研究」、北海道大学大学院文学研究科修士論文
池田透 (1999) 「北海道における移入アライグマ問題の経過と課題」、北海道大学文学部紀要 47巻4号149-175頁
池田透 (1997) 「日本における移入哺乳類の諸相と問題点」、北海道大学文学部紀要 46巻1号195-215頁
池田透 (2000) 「移入アライグマの管理に向けて」、保全生態学研究 5巻2号159-170頁
池田透 (2002) 「アライグマ」、外来種ハンドブック:地人書館 70頁
池田透 (2003) 「アライグマ」、外来生物 つれてこられた生き物たち:滋賀県立琵琶湖博物館 64-65頁
Makoto Asano et. al. (2003) 「Growth pattern and seasonal weight changes of the feral raccoon (Procyon lotor) in Hokkaido, Japan.」、Jpn. J. Vet. Res. 50巻4号165-173頁
Makoto Asano et. al. (2003) 「Reproductive Characteristics of the Feral Raccoon (Procyon lotor) in Hokkido, Japan.」、J. Vet. Med. Sci. 65巻3号369-372頁
堀繁久・的場洋平 (2001) 「移入種アライグマが捕食していた節足動物」、北海道開拓記念館研究紀要 29巻67-76頁
哺乳類保護管理専門委員会 (1999) 「移入哺乳類への緊急対策に関する大会決議」、哺乳類科学 39巻1号115-129頁
池田透(1997),日本における移入哺乳類の諸相と問題点,北海道大学文学部紀要,46巻,1号,pp.195-215
池田透(2000),移入アライグマの管理に向けて,保全生態学研究,5巻,2号,pp.159-170
Makoto Asano et. al.(2003),Growth pattern and seasonal weight changes of the feral raccoon (Procyon lotor) in Hokkaido, Japan.,J. Vet. Res.,50巻,4号,pp.165-173
Makoto Asano et. al. (2003),Reproductive characteristics of the feral raccoon (Procyon lotor) in Hokkido, Japan.,J. Vet. Med. Sci.,65巻,3号,pp.369-372
堀繁久・的場洋平(2001),移入種アライグマが捕食していた節足動物,北海道開拓記念館研究紀要,29巻,pp.67-76
池田透(2003),アライグマ問題にみる「移入(外来)種」原論,北海道自然保護協会,pp.63-66
(*2)油谷しおり(1999),野幌森林公園における移入種アライグマの生息状況・食性,北海道大学理学部卒業論文,pp.16
(*3)佐藤宏(2005),人獣共通感染症としての回虫症-アライグマ回虫症を中心に-,モダンメディア別冊,51巻,8号,pp.177-186
(*4)Fumie Okabe and Naoki Agetsuma(2007),Habitat use by introduced raccoons and native raccoon dogs in a deciduous forest of Japan.,J. mammal.,88巻,4号,pp.1090-1097
倉島治・庭瀬奈穂美(1998),北海道恵庭市に帰化したアライグマ(Procyon lotor)の行動圏とその空間配置,哺乳類科学,38巻,1号,pp.9-22
Yohei Matoba et. al.(2003),Detection of a taeniid species Taenia taeniaeformis from a feral raccoon Procyon lotor and its epidemiological significance,Mammal Study 28巻,,pp.157-160
Yukari Shimatani 他(2008),Genetic Identification of Mammalian Carnivore Species in the Kushiro Wetland,Eastern Hokkaido,Japan,by Analysis of Fecal DNA,Zoological Science25,,pp.714-720
(*5)金田正人(2005),外来生物アライグマによるトウキョウサンショウオの影響について,爬虫両棲類学会報,1号,pp.60-61
(*6)揚妻-柳原芳美(2007),愛知県におけるアライグマ野生化の過程と今後のあり方について,哺乳類科学,44巻,2号,pp.147-160
梶浦敬一・安藤志郎(1986),岐阜県におけるアライグマの生息状況2-アライグマの夜間活動記録,岐阜県博物館調査研究報告,7巻,,pp.57-62
安藤志郎・梶浦敬一(1985),岐阜県におけるアライグマの生息状況,岐阜県博物館調査研究報告,6巻,pp.23-30
前崎武人ほか(2003),馬追・野幌丘陵における野生化アライグマの生息数(密度)の推定とその生息環境(Ⅲ),森林野生動物研究会誌,29巻,pp.39-52
田畑真悠ほか(2006),神奈川県西部域における外来種アライグマの分布-2004年,神奈川自然誌資料,27巻,pp.21-26
(*7)佐藤宏・鈴木和男(2004),和歌山県でのアライグマ糞線虫(Storongyloides procyonis)の検出-アライグマの国内持ち込み寄生虫を考える,Zoo and Wildlife News,19巻,pp.24-29
(*8)新田紀敏(2009),エゾモモンガの巣に接近したアライグマ,北方林業,61巻,5号,pp.104-107
(*9)的場洋平ほか(2002),外来種アライグマ(Procyon lotor)からのコクシジウム類Eimeria属およびIsospora属の初確認とトキソプラズマ抗体の保有状況,野生動物医学会誌,7巻,1・2号,pp.87-90
遠藤将史(2003),野幌森林公園とその周辺地域におけるアライグマの環境利用,平成12年度北海道大学卒業論文(文学部),65pp
Gehrt, S.D., and E.K. Fritzell.(1999a),Behavioural aspects of the raccoon mating system: Determinants of consortship success,Animal Behaviour,57巻,pp.593-601
Gehrt, S.D., and E.K. Fritzell(1999b),Survivorship of a nonharvested raccoon population in south Texas,Journal of Wildlife Management,63巻,pp.889-894
Gehrt, S.D., and E.K. Fritzell.(1998),Resource distribution, female home range dispersion and male spatial interactions: Group structure in a solitary carnibore,Animal Behaviour,55巻,pp.1211-1227
米田政明(1994),アライグマ,日本の哺乳類,阿部永ほか,東海大学出版会,p.114
EnVision環境保全事務所(2000),平成11年アライグマ捕獲等業務委託報告書,EnVision,20pp
石狩支庁アライグマ被害検討協議会・北海道石狩支庁(1999),アライグマによる農業等被害防止の手引き,,,石狩支庁アライグマ被害検討協議会・北海道石狩支庁,59pp
環境省自然環境局 生物多様性センター(2007),平成18年度自然環境保全基礎調査-種の多様性調査(アライグマ生息情報収集)業務報告書,,,環境省自然環境局 生物多様性センター,130pp
北海道森林整備公社(2001),平成12年度野生化アライグマ捕獲業務報告書,,,北海道森林整備公社,104pp
北海道森林整備公社(2002),平成13年度アライグマ捕獲事業委託業務報告書,,,北海道森林整備公社,114pp
北海道森林整備公社(2003),平成14年度アライグマ捕獲事業委託業務報告書,,,北海道森林整備公社,165pp
北海道森林整備公社(2004),平成15年度アライグマ捕獲事業委託業務報告書,,,北海道森林整備公社,113pp
池田透(2006),生態系保全を目的とする外来アライグマ対策構築への合意形成に関する研究,平成16年度~平成17年度科学研究費補助金(基盤研究C)研究成果報告書,,北海道大学大学院文学研究科地域システム科学講座池田研究室,100pp
北海道森林整備公社(2009),平成20年度アライグマ捕獲事業委託業務報告書,,,北海道森林整備公社,62pp
北海道森林整備公社(2008),平成19年度アライグマ捕獲事業委託業務報告書,,,北海道森林整備公社,70pp
北海道環境科学研究センター(2003),移入哺乳類排除システム確立に関する研究,環境省補助 環境技術開発等推進事業[実用化研究開発課題]研究開発成果報告書,,北海道環境科学研究センター,262pp
北海道森林整備公社(2006),平成17年度アライグマ捕獲事業(冬季捕獲)業務報告書,,,北海道森林整備公社,33pp
北海道森林整備公社(2008),平成17年度アライグマ捕獲業務報告書,,,北海道森林整備公社,117pp
池田透(2009),外来種問題~アライグマを中心に,日本の哺乳類学2-中大型哺乳類・霊長類,高槻成紀・山極寿一編,東京大学出版会,pp369-400
北海道森林整備公社(2007),平成18年度アライグマ捕獲事業業務報告書,,,北海道森林整備公社,116pp
北海道森林整備公社(2005),野生化アライグマ調査・捕獲業務報告書(札幌市事業),,,北海道森林整備公社,101pp
北海道大学アライグマ研究会(2008),平成19年度国立公園等民間活用特定自然環境保全活動(グリーンワーカー)事業(シマフクロウに脅威となるアライグマの侵入状況調査業務)報告書,,,北海道大学アライグマ研究会,21pp
(*10)Gehrt, S.D., and E.K. Fritzell.(1999)Behavioural aspects of the raccoon mating system: Determinants of consortship success 57巻pp.593-601
(*11)Gehrt, S.D(2003),Raccoons and allies,Johns Hopkins University Press,611-634pp
(*12)Gehrt, S.D., and E.K. Fritzell(1999),Survivorship of a nonharvested raccoon population in south Texas,Journal of Wildlife Management,63巻,pp.889-894
(*13)Sanderson, G.C(.1987),Raccoon,Ontario Trappers Association,487-499pp
(*14)Gehrt, S.D., and E.K. Fritzell.(1998),Resource distribution, female home range dispersion and male spatial interactions: Group structure in a solitary carnibore,Animal Behaviour,55巻,pp.1211-1227
(*15)Kaufmann, J.H(1982),Raccoon and allies,Johns Hopkins University Press,567-585pp
(*16)Zeveloff, S.I.(2002),Raccoons: A natural history,Smithsonian institution press,200pp
(*17)環境省北海道地方環境事務所・北海道環境生活部環境局自然環境課・EnVision環境保全事務所(2009),「地域からアライグマを排除するための手引き」及び「北海道アライグマ防除技術指針」,北海道環境生活部環境局自然環境課