ウチダザリガニ
  昆虫以外の無脊椎動物 ⁄ 国外外来種
ウチダザリガニ
目名 十脚目
科名 ザリガニ科
種名(亜種名 ウチダザリガニ
学名 Pacifastacus leniusculus
地方名  
カテゴリー 北海道 A1
環境省 特定外来生物
ワースト100 日本の侵略的外来種ワースト100(日本生態学会) 
*)亜種が問題となっている場合は、カッコ内に亜種名を記載しています。
●種名が特定できないものについては、「○○○の一種」と記載しています。

導入の経緯

原産地 北アメリカ コロンビア
導入年代 1930年7月25日(1909年にタンカイザリガニとして初めて日本に輸入された。(*5))
初報告 1953年
全国分布 北海道、福島県、滋賀県、長野県。最近になり千葉県でも発見され、調査が進められている。
道内分布 中川町、北見市、清里町、標津町、枝幸町、置戸町、根室市、釧路湿原、帯広市、豊頃町、摩周湖、屈斜路湖、阿寒湖、然別湖、支笏湖、洞爺湖。 近年になって北海道東部と北部を中心に急速に生息範囲を拡大している(*3)。
導入の原因 国内へは、食料増産を目的として政府が公式に輸入した例がある。日本全国の水産試験場に配布された(*2,3)。その他、研究用に持ち込まれたものや商社が産業目的で輸入・販売したケースなど、背景は多様(*3)。北海道では、食料増産を目的として正式に放流された(*3)。当初、摩周湖のみに定着したが、摩周湖から持ち出された個体の密放流により分布を拡大したとされる(*2)。

種の生物学的特性

生活史型 孵化後2~3年で成熟し、寿命は5~6年(*2,3)
形態 最大で全長15cm程度に成長し、ニホンザリガニを食べる(*2)。
繁殖形態 北海道での交尾期は初雪の頃(10~11月)。その数週間後に産卵が始まる。メスは腹部に卵を抱えたまま越冬し、翌年の初夏に卵が孵化する。卵数は数百(*3)
生息環境 冷水性の河川や湖沼。ただし音更町では、温泉水が流入する高水温性の小河川にも定着し、アメリカザリガニと共存していることが確認されている(*4)。
特記事項 随伴生物として甲殻類の1種とヒルミミズ類の1種が確認されている。 摩周湖のニジマス(外来生物)の胃にウチダザリガニが詰まっていたという報告があり、ニジマスの餌資源になっていると考えられる(*3)。同様に、外来種であるミンクやアライグマがウチダザリガニを食べていたという目撃例がある(*3)。

影響

被害の実態・おそれ 生態系にかかる影響 在来種ニホンザリガニとの競合 捕食者として湿原生態系などの在来生態系を撹乱している可能性が高い(*1, 3)。ミズカビ病(ザリガニペスト)を媒介し、在来種に感染させる可能性がある。国外で行われた室内実験では、日本固有のニホンザリガニがミズカビ病に感染すると100%致死することが明らかになっている(*5)。阿寒湖では国指定の天然記念物であるマリモに穴を開けるなどの被害も確認されている(*2)。
農林水産業への影響 不明
人の健康への影響 不明
被害をもたらしている要因 生物学的要因 水温変動や汽水環境にも耐性がある(*1)。北海道の千島火山帯に属するあたりには水温が低いカルデラ湖が多く存在し、本種の原産地(北米のコロンビア川水系)にある湖と似た環境になっている(*3)。
社会的要因 分布拡大の一番の要因として、人為的な放流があげられる(*1,2,3)。その背景は、ウチダザリガニというザリガニ自体を知らない市民が多いことに加えて、ニホンザリガニとウチダザリガニの小型個体が形態的に比較的良く似ているため、特に児童がウチダザリガニをニホンザリガニと誤認して捕獲・飼育し、再放流してしまうことにある(*1)。
特徴並びに近縁種、類似種 はさみの付け根にある白い部分で信号を送っているように見える。額角は鋭く尖り、体はがっしりしている。体色は緑褐色または茶褐色、青褐色など(*2)。淡海湖の個体群は別亜種タンカイザリガニとして扱われてきたが、現在は同種と見なされている(*2,3)。
対策 放流禁止の法整備、放流の危険性に関しての普及・啓発。国などによる捕獲調査。市町村等を対象とした捕獲カゴの貸出(北海道)。 放流防止には教育現場での啓発が必要で、教科書の副読本等で取り上げる必要がある(*1)。
その他の関連情報 北アメリカのカリフォルニア州南部やヨーロッパでもウチダザリガニが導入され、在来生態系へ影響を及ぼす深刻な問題を引き起こしている。

写真・イラスト

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備考

備考 本種は岩内町、千歳市にも導入されたが現在は分布が見られない。亜種の分類が混乱している。 原産地である北米では当初、北海道に導入されたウチダザリガニと滋賀県に導入されたタンカイザリガニ(滋賀県の淡海池に分布するものはタンカイザリガニと呼ばれる)は別の種とされていた。その後、分類学的な認識が変わり、今では両者は同じ種類とされている。現在も、ウチダザリガニ、タンカイザリガニの名称はそのままに用いられている。分類学的な扱いに関しては、まだ解決されていない部分も多く残されているが、原産地では数が減って稀少になり、分類学上の標本集めも難しくなっている(*3)。

参考文献

参考文献 Hiruta, S., 1999. The present status of crayfish in Britain and the conservation of the native species in Britain and Japan. Journal of Environmental Education, 2: 119-132.
川井唯史・中田和義・小林弥吉, 2002. 日本における北米産ザリガニ類(タンカイザリガニとウチダザリガニ)の分類および移入状況に関する考察. 青森自然誌研究, 7: 59-71.
Ohtaka, A., S. R. Gelder, T. Kawai, K. Saito, K. Nakata, and M. Nishino, 2004. New records and distributions of two North American branchiobdellidan species (Annelida: Clitellata) from introduced signal crayfish, Pacifastacus leniusculus, in Japan. Biological Invasions, 7: 149-156.
中田和義ほか, 2001, 北海道十勝地方におけるザリガニ類の分布および個体数密度の経年変化, 帯広百年記念館紀要,19: 79-88,
(*1) 齊藤和範, 2002, ウチダザリガニ~摩周湖から放逐によって北海道東部・北部に分布拡大~, 外来種ハンドブック, 日本生態学会編, 地人書館, p168
(*2)自然環境研究センター, 2008. ウチダザリガニ, 日本の外来生物. 平凡社, p212-213
(*3) 川井唯史, 2009, ザリガニ ニホン・アメリカ・ウチダ, 岩波書店
Nakata, K., A. Tanaka and S. Goshima, 2004. Reproduction of the alien crayfish species Pacifastacus leniusculus in Lake Shikaribetsu, Hokkaido, Japan. J Crust Biol 24: 496-501.
(*4) Nakata, K., K. Tsutsumi, T. Kawai and S. Goshima (2005) Coexistence of two North American invasive crayfish species, Pacifastacus leniusculus (Dana, 1852) and Procambarus clarkii (Girard, 1852) in Japan. Crustaceana 78: 1389-1394.
(*5) 中田和義ほか, 2006.外来種ウチダザリガニに対する児童と大人の認識. 生物教育, 46: 174-183.
(*6)Nakata, K. and S. Goshima (2006) Asymmetry in mutual predation between the endangered Japanese native crayfish Cambaroides japonicus and the north American invasive crayfish Pacifastacus leniusculus: a possible reason for species replacement. Journal of Crustacean Biology, 26: 134-140.